瞑想の方法(意識について)

意識の持ち方

 これまで、幾つか瞑想の方法論についてご紹介してきました。今回は、瞑想を行なう上でどのような意識を持てばよいかということについて書かせていただきます。

 上記したような姿勢・呼吸で瞑想を開始したあなたは、いろいろな意識が頭をもたげてくることに気づくと思います。普段意識していないことですが、我々はいかに様々なことを考えているのかと驚くと思います。最終的に何も考えないよう努力することを目指しますが、瞑想ではその前段階として『内観』というものがあります。こうした意識を、一歩引いた視点から客観視する行為を指します。

「あ、いま仕事のことを考えたな」「あすの昼ごはんのことを考えたな」「風呂がわいているかどうか気になってるな」「そろそろ暖かくなったな、セーターを脱ごうかと考えてるな」「そうかあの件の支払いがまだだったな」……。

 こうした思考は、潜在意識という湧き水の底から次々と立ち上ってきます。「こういう考えをする自分はダメなんだ」、ではなく「これは人間として当たり前なんだ」と思いましょう。そして、この潜在意識とのつきあい方を学ぶのです。

意味のない言葉を発する

 瞑想では呼吸に意識を向けるほか、『マントラ』を発することも有効です。本来の意味ではマントラとはサンスクリット語で「文字」「言葉」といった意味であり、大乗仏教における仏に対する賛美・祈りを象徴する言葉です。意味のない言葉ではありません。しかし我々が行なうような瞑想で、そこまで厳密に正確である必要はないでしょう。「アンナラハンヌラ」「ウンニャカハンニャカ」といった。意味のない言葉の羅列で構いません。

 意味のない言葉を発することが、なぜ瞑想に対して有効なのでしょうか? 実は、人間は同時に2つ以上のことを意識できないからです。例えばどこかを打撲した人に対して、その人の手を思い切り平手打ちしたとします。かわいそうなその人は、平手打ちされた瞬間、打撲された部位の痛みを忘れてしまうのです。注射が苦手な方は、小さいころに看護師さんから足をつねられた経験はないですか? 子どもの気をそらすため足をつねったりするのも、これと一緒の理屈です。足をつねっている間に注射することで、針の痛みから子どもの意識をそらすわけです。

 それと同様に、マントラを発することは「マントラを発している自分」に意識が向きやすくさせ、他の様々な思考から逃れることを助けてくれるわけです。

 もちろん、最初はなかなかうまくいかないこともあるでしょう。瞑想を始め、精神を集中することでいろいろなアイデアが浮かぶかもしれません。あるいは、職場で上司に言われたきつい一言が蘇ってくるかもしれません。「ああ、あんなこと言うんじゃなかったな」「ああいう風にしておけばよかったな」「でもあんな言い方はないだろ」……。

 余計な考えは次々と浮かんできます。そうしたら、その都度呼吸やマントラに意識を向け直す。これが唯一にして絶対のルール。「あ、ちょっと別のことを考えたな」と思ったら呼吸、そしてマントラへ。この考え方をクセになるまで繰り返して下さい。やがて、何も考えずに30分なり長い時間瞑想ができるようになればしめたものです。

 瞑想中に、何らかの変化が感じられなかった方もご安心ください。そもそも瞑想というものは、それをやっている間に何か明確な変化が体感できるものではありません。しかし思考は明らかに整理され、いつの間にかアイデアが溢れてきたり、ちょっとしたストレスには動じなくなっている自分に気づくことでしょう。

セルフイメージに失敗する日本

 私たちは日頃いろいろなことを考えています。「お腹すいたな、お昼は何にしよう」「あすは違うルートから帰ってみよう」「満員電車に乗るのは嫌だな」「昨日の仕事まだ終わってないな、面倒くさいな」……特に疲れているときは、マイナスのことを考えがちです。

 特にマイナスのセルフイメージを持つことは、自尊心の低下に容易に繋がります。日本人は、あまり幸せではないとよく言われます。2014年に米シンクタンクが世界各国の「幸福度」について調べたところ、世界中の国々の幸福度において上位を占めたのは新興国と呼ばれる国々であり、一方で我が国は韓国やイタリア、フランスを抑えて先進国では最下位という結果となっています。

 ゆえに、日本の自殺率は世界有数の水準であり、2014年時点の統計によると10万人あたりの自殺率は20.9人、OECD平均(12.4人)に比べて非常に高い水準です。ちなみに日本のGDP(国内総生産)は中国に抜かれたものの世界3位です。世界で3番目に裕福な国、と結論づけることはできないものの、少なくとも多くの発展途上国よりも経済的に豊かであるはず。にもかかわらず、日本の幸福度はインドネシアなどの国々よりも低いわけです。

 多くの要因がありますが、その一つに日本人は謙譲の美徳があります。謙譲の美徳そのものは美しいですが、それが高じ「良いセルフイメージを持つこと」自体を規制したいと願う人もまた多いように思います。「出る杭は打たれる」といいますが、日本では自分に対しても他人に対しても、良いセルフイメージを持つよりも自重することを求める傾向があります。

 そうした考えが通用した時代もあったのでしょう。しかし、現代においてこれほど高い自殺率、そして低い幸福度という結果が出ている以上、こうした考え方にとらわれる必要はないのではないでしょうか。そして、そんな日本に住む私達にとって、瞑想を行なうことは明らかにプラスの効果を持ちえるのではないかと思います。